日本社会が外国人労働者受け入れを決めるにあたり考えるべき重要ポイントは?
日本政府による新設される予定の「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザの概案が公表され、明日(2018年10月24日)召集され2018年12月10日まで開催される臨時国会でも重要な審議事項の1つになるようですね。日本社会が外国人労働者の受け入れを決めるにあたり考えておくべき重要なポイントにはどのようなものがあるでしょうか。
日本政府による「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザの概案
日本政府による「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザの概案が公表されました。
2018年10月12日付で内閣官房副長官補本室が
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai2/gijisidai.html
外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議
というページで、
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai2/siryou1.pdf
出入国管理及び難民認定法及び法務省設置の一部を改正する法律案の骨子について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/gaikokujinzai/kaigi/dai2/siryou2.pdf
新たな外国人材の受入れに関する在留資格「特定技能」の創設について
という資料を公開しているようです。
日本社会が外国人労働者を受け入れを決めるにあたり議論が必要と思われること
日本社会が外国人労働者を受け入れを決めるにあたり議論が必要ではないかと思われることを数点に絞って挙げていきます。2018年10月下旬の時点で、「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザに限定せずに、日本の外国人労働者受け入れに関して、考えたほうがよいと思われることをまとめておきます。
1. 外国人労働者受け入れにより日本人の賃金上昇が抑制されるのでは?
「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザに関しては、人出不足による人件費増を嫌う日本の産業界の強い意向を受けて外国人労働者に門戸を開放するという一面があるように思われ、日本人労働者の賃金上昇が抑制されるのではないかということが懸念されているようです。個人的には、はっきりとした形で日本人労働者の賃金上昇がみられるまで少なくとも数年間は、外国人労働者の受け入れは行わないほうがよいのではないかと思っているのですが、当エントリーをお読みいただいているみなさまは、いかがお考えでしょうか。
2. 外国人労働者の受け入れが前提になった社会で受け入れがストップしたらどうなる?
外国人労働者を受け入れる制度が開始された場合、外国人労働者受け入れが半ば前提の社会に移行していくのではないかと思われますが、外国人の送り出し国の経済事情の大きな変化や政変等により、突然外国人の受け入れが中断を余儀なくされるような事態になることも想定しておいたほうがいいかもしれません。
3. 不況になっても、人手不足が解消されても、外国人労働者は都合よく帰国させられない
景気変動で日本が不況に陥った場合や相当年数が経過後多くの分野で人手不足が解消された場合、日本政府は外国人労働者を帰国させようという政策を打ち出すようになるかもしれませんが、日本が外国人労働者の送り出し国よりも生活水準や賃金、医療、教育のレベルが高いなら、多くの外国人労働者は引き続き定住を希望し帰国しない可能性が高いでしょうし、日本政府や日本社会が外国人労働者に帰国を強制することはできないのではないでしょうか。
4. 外国人労働者定住に備えて、家族サポート・教育サポートの充実、高齢化対策が必要
日本国内の人手不足対策や労働力の補完に目が行きがちですが、日本に大人数の外国人労働者が入ってきてその外国人労働者の相当数が定住するようになった場合に備えて、その労働者が家族をつくる、教育を受ける、高齢化したときの介護をする等々のことが必要になるように思われます。教育に関しては、外国人労働者に対する日本語教育のサポート体制を築くことも大事ですが、将来的には外国人、非母語話者を対象とする日本語教育(特に子ども向けの日本語教育)と学校の教科を理解するための教科教育(とその準備教育)が重要になるのではないかと考えています。
5. 仮に定住しない外国人労働者を活用できたとしても、受け入れ企業の大きな問題を先送りするだけでは?
昨年(2017年)9月、中日新聞で外国人研修生、技能実習生を受け入れてきた岐阜の縫製会社を取材した
http://www.chunichi.co.jp/article/feature/newswotou/list/CK2017090302100011.html
外国人実習生に頼る岐阜アパレル
という記事は、今後日本社会、特に日本の中小企業、零細企業が外国人労働者を受け入れることの問題点も浮かび上がらせる示唆に富む内容なのではないかと思います。
実習生はどんなに技術が上達しても、三年で帰国させなければいけない。九三年に制度が始まって二十年余り。日本人を育てる余裕がないまま、実習生に依存してきた結果、産地を支えていた高度な技術力の継承は後手に回った。岐阜アパレルの全盛期を担った技術者は高齢になり、モノづくりの基盤が失われつつある。
昨今の労働力不足を補うため、外国人を積極的に受け入れるべきだという議論がある。だが、結局は産地に根付かない外国人の力を借りて、本当に未来を描けるのか。実習制度の改正で十一月からは一定の条件を満たせば最長五年の受け入れが可能になるが、制度の本質は変わらない。企業は人材不足を埋めるための急場しのぎではなく、ビジョンを持って実習生の受け入れを判断するべきだろう。
という指摘がされている箇所が重要だと考えています。現時点(2018年10月の時点)で日本政府が説明しているように、今後「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザ等で受け入れる外国人労働者が、仮に定住しない外国人労働者として外国人が日本で数年間だけ労働するということになった場合でも、日本の様々な産業が抱える大きな問題は解決、解消せずに、外国人労働力によって単に一旦先送りされるだけになる可能性が高いように思われます。
6. 日本は戦略的に縮小に向かうべきではないかという論者のご意見
産経新聞社の河合雅司氏は下記の記事
https://www.sankei.com/column/news/181021/clm1810210007-n1.html
外国人労働者の拡大、本当に日本は救われるのか
で、
外国人の受け入れが進めば、人口減少を前提とした日本社会の作り替え作業は遅れる。そもそも外国人労働者の大規模受け入れは、現在の社会のサイズや過去のビジネスモデルを維持しようという発想であるが、実際にはこうした努力は長続きしない。
と指摘されているようですが、ごもっともな点もあるのではないかと思われます。河合氏は、『社会保障など予期せぬコスト増にもつながる』、『長期的視野に立って「人口減少に耐えうる社会」へと作り替えを急ぐほうが賢明だ』、『「戦略的に縮む」努力を放棄した時点で、日本は衰退の道を歩み始める』等の論点も挙げられているようです。『外国人が一定の人口シェアとなれば地方参政権を求める声も強まることも予想される』という指摘もあり、台湾のように、外国人の住民の選挙投票が政治家の当落にインパクトを与え得るような社会になるということもあり得ないことではないように考えられます。外国人労働者の受け入れに賛成される方々にとっても反対される方々にとっても河合氏の上記の記事は興味深いのではないかと思います。
7. 外国人労働者の人権とは?――外国人労働者を受け入れることに対する日本弁護士連合会の宣言
2018年10月5日付で、日本弁護士連合会が下記のような宣言を
https://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2018/2018_1
新しい外国人労働者受入れ制度を確立し、外国にルーツを持つ人々と共生する社会を構築することを求める宣言
を公表しているようです。外国人労働者の人権に関して重要な指摘がまとめられているようです。
8. 「特定技能」という在留資格で受け入れる外国人労働者を移民と言うか言わないかという問題
2018年10月14日の東京新聞の記事、
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201810/CK2018101402000121.html
単純労働に新在留資格案 政府「移民」打ち消し躍起
では、日本政府が単純労働分野での就労を想定した在留資格(「特定技能」(仮称)という在留資格、ビザ)に関して『「移民政策とは異なる」と繰り返し強調し』ていることが取り上げられています。
一部の例外的なケースを除けば、技能を実習するという建前が形骸化し大半が単純労働力の受け入れになっているようである技能実習生に対しても、日本政府は実態には合わせようとはせず建前論を押し通し続けているぐらいですので、今後も「(日本政府が)移民と言わなければ移民ではない」という論法で切り抜けようとするのではないかと推測しています。
日本社会が外国人労働者を受け入れを決めるにあたり考えておいたほうがよいのではないかと思われる重要なポイントをまとめてみました。当エントリーをお読みいただいた方々のご参考になれば幸いです。
当エントリーをお読みいただき、ほんとうにありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。